信州の各地で、美しい緑のある環境づくりに取り組んでいるエキスパートたち。どんな仕事をして、どんな発見に出会ってきたのでしょうか。若手から中堅まで、信州の緑の達人たちが、信州の造園の今を語ります。
高校を卒業後、地元のゴルフクラブに勤務し、グリーンキーパーとしてコースの維持管理に携わっていたという花﨑哲也さん。その職場で出会った奥さんの実家が、現在の会社だったそうです。
もともと造園に関心が深く、「ゴルフ場がオフとなる冬期には手伝いに来ていたのですが、本格的に造園の仕事に取り組もう」と飛び込んだのは28才の時。芝草管理技術者の資格を持ち、芝の維持管理については経験を重ねてきた花﨑さんですが、最初のころは「造園の世界の奥深さを改めて知らされた思いだった」そうです。
樹の剪定や花の植栽、時期ごとの管理など作業の一つひとつに蓄積されたノウハウがあり、高度な技術や知識の裏付けが込められています。
「まずは教えていただいたとおりにやってみる。何度も繰り返して、自分の身体に覚えさせていく。繰返し繰返し、ていねいに。そうしないとなかなか身につかないものなんですね」と語ります。その積み重ねが、庭師としての目と技を高めていきます。
一方、その間に造園施工管理技士や重機の運転技能資格などを取得し、携わる業務の幅を広げてステップアップを図ってきました。個人のお宅の庭づくりから街路や公園の維持管理まで幅広い仕事に携わりますが、生き物を相手にするただけに、つねに「勉強」を意識しているそうです。
軽井沢生まれの軽井沢育ち。幼い頃からスピードスケートをやっていたという栁澤幸一さんは、快活なスポーツマンです。
同じく幼い頃から慣れ親しんできた造園の仕事に進もうと、高校卒業後は首都圏の専門学校へ進学。さらに専門的な技能と知識を学ぶため埼玉県大宮市にある造園会社に入社。1年間の修業の後、軽井沢へ戻ってきました。
会社があるのは軽井沢バイパス沿いの木立の中。周囲にはリゾートホテルや別荘が広がります。仕事の内容も、そうした別荘の庭園づくりや維持管理などが多くを占めています。
栁澤さんが庭の管理を担当しているお客様の別荘に同行してみました。庭先にはさまざまな樹木や野草が植えられ、ていねいに植えられた苔が広がってきています。
「このお客様は山野草に造詣が深いんですよ。そのご要望をうかがいながら、それではこんな工夫をとか、自分なりにご提案をさせていただきながら進めているんです。年々形が整っていく、庭として成長していく姿を見られるのは、仕事ですけど楽しみですね」と語ります。
もちろん草も樹木も生き物。適した環境でなければ育ちません。ことに軽井沢は厳寒の冬をかかえるため、木の育ちは遅く、手入れを怠れば荒れてしまいます。そうした気候風土の条件を踏まえて、一歩ずつ、庭の姿を整えていく。時間をかけて創りあげていくことが造園の醍醐味です。
大学へ進んだ頃までは「将来は体育の教師とか指導者になれたらなと思っていた」という小林大祐さん。しかし、いざ本格的に就職をと考えだしてみると、実家の仕事を継いでいきたいと強く思うようになったのだそうです。
就職したのは東京にある大手の造園会社。ここで5年半、造園や樹木についての基礎的な知識や技術をしっかり学ぶとともに、さまざまな造園工事の施工に携わって、施工管理のノウハウを身につけました。「さまざまな造園工事に携わることができたのは、今思い返すと得難い経験でした」と小林さん。
そして満を持して戻ってきたふるさと。ところが、いざ仕事に取り組んでみると、同じ造園工事と言いながら、勝手が違う。「あぁこれは、また一から勉強だと思いました」と語ります。
雪のない関東と雪国の違い、土壌や土質の違い。気候風土が異なれば扱う樹種もまったく変わってきます。庭木の好みや配置なども土地の文化が色濃く息づきます。
「植栽のしかた、手入れの方法など、どれをとっても地元の知恵に学ばなければわからないことだらけでした。でも逆にいえば、そういう地域性が、造園の奥深さであり、魅力でもあるんだと思います」と小林さん。
大正12(1923)年創業という歴史を刻む飯田市の老舗会社で仕事に取り組む、池田典史さんと伊藤秀幸さん。それぞれ大学と専門学校で造園緑地工学を学び、造園のプロとなることを目ざして入社してきた若手です。
昨年平成22(2010)年10月、2人はチームを組んで第48回技能五輪全国大会(主催中央職業能力開発協会)に出場しました。
技能五輪は「次代を担う青年技能者の育成を図る」ことを目的としたもので、大会の競技は40種目。その内「造園」競技には、全国各地を代表する36名が参加。横浜市みなとみらいのパシフィコ横浜を会場として2日間の競技が行われました。
「自信になりました。でも本音を言えば金色のメダルが獲りたかったですね」と池田さん。「池田さんに誘われてチャレンジしたのですが、練習から大会まで、本当に貴重な体験をさせてもらいました」と伊藤さん。