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事業案内

高校生と語る未来の造園業

造園の魅力って何だろう

 須坂園芸高等学校は、長野県下で唯一、造園科がある高校です。広い学校敷地内には、さまざまな庭園や緑地が設けられており、恵まれた環境の中で生徒たちはのびのびと高校生活を送っています。こうした庭園などを管理するのも生徒たち。造園の分野では全国的にも知られ、(一社)日本造園建設業協会が主催する「全国造園デザインコンクール」では、平成17年度から5年連続で文部科学大臣賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を見せています。
 そんな須坂園芸高校をお訪ねして、造園科に学ぶ生徒と、造園の魅力や未来について、語り合いました。

西澤国之さん
長野県須坂園芸高等学校
教諭 西澤国之さん

司会: こんにちは。今日は須坂園芸高校をお訪ねして、造園の勉強をされている高校生の皆さんと、造園の魅力って何だろう、どんな未来があるのだろうということをお話ししたくてうかがいました。
 最初に、西澤先生から須坂園芸高校の造園科についてご紹介をお願いします。

西澤: 本校には4学科がありますが、造園科は長野県下でも唯一の学科です。最近は環境保全や緑化に社会的な関心が高まっていることもあって、造園デザインを知りたい、技術を学びたいと入学してくる生徒も多いです。1年次に基礎を学んで、2年次にコースを選択するのですが、造園科には、環境工学、緑地計画、造園技術の3コースがあります。
 校内外でのクラブ活動や研究発表も盛んです。今日集まってくれた生徒たちも、それぞれ全国的な大会やコンクールなどに取り組んでいます。よろしくお願いします。

 

全国大会や コンクールで活躍

青木 元さん
長野県須坂園芸高等学校
3年生 青木 元さん

司会: では高校生の皆さん、自己紹介をお願いします。普段、皆さんはどんな活動をしているんですか。

青木: 青木元です。今、文化祭に向けて玉垣の製作をしています。墨付や木材の焼きなども最初から手がけていくのは難しさもありますが面白いですね。
 部活では測量クラブに所属し、部長をしています。全国大会に向けた練習に取り組んでいる真っ最中です。実は、1年生の時にも全国大会に出場したのですが、自分が未熟で、先輩の足を引っ張ってしまったという苦い思い出があります。それだけに今回は、3年間の集大成として充実した大会にしたい。そういう気持ちで、毎朝グラウンドで練習を繰り返しています。

鈴木 幸さん
長野県須坂園芸高等学校
3年生 鈴木 幸さん

鈴木: 鈴木幸と言います。植物や庭園づくりに興味があって、そういう勉強がしたくて造園科に入りました。緑地計画コースで造園設計などを学んでいます。私は、1年生の時から全国造園コンクールに挑戦させてもらったのですが、最初はわからないことばかりで、つらくて大変でしたけれど、やり終えた時の達成感はとても大きなものでした。自信になりました。
 2年生になってコースに入ってからは、授業はもちろんですが、部長をしている造園クラブの課外活動やボランティアで地域の人とも触れ合う機会が増え、いろいろ教えてもらったり。そうしたことも大きな経験になっていると思います。

野口: 野口惠理です。造園クラブの副部長をしています。クラブでは、今年5月に埼玉県の西武ドームで開催された「国際バラとガーデニングショウ」でガーデンコンテストに出品しました。作品名は「The Dream Garden」です。3年生部員が共同でデザインして、4月から作品の製作に取りかかったのですが、ゴールデンウィークも毎日集合して作業を行い、なんとかコンテストに間に合わせることができました。設計はもちろんですが、アーチやフェンスなどもすべて手作り。動線を考えたり、管理をしやすく工夫したりと、大変でしたが、入賞することができました。とても貴重な体験で、造園の多様な面白さを感じることができたと思います。
 今は、文化祭に向けて、屋上緑化をテーマに作品づくりに取り組んでいるところです。

 
作品 (一社)日本造園建設業協会が主催の「全国造園デザインコンクール」で、須坂園芸高校は平成17年度から5年連続で文部科学大臣賞を受賞。
右の作品は平成21年度国土交通大臣賞受賞作品、平成16年度、18年度に続いて全作品中の最高賞は3作品目となる。
 

造園は実に幅の広い世界

司会: 今度は、日ごろ造園の仕事に携わっている皆さん、お願いします。

北村千春さん
北村千春さん
(株式会社昭和ガーデン)

北村: 北村千春です。生徒さん達のお話をうかがっていて、さすが須坂園芸の伝統は素晴らしいなと改めて感じました。皆さんの経験していることは将来にわたって、とても有意義なことです。
 皆さんも感じていると思いますが、造園は実に幅の広い仕事です。公園ひとつをとっても、そこには植栽があり、休憩所や管理棟があり、ベンチやフェンス、遊具などもある。そうしたことをトータルに取り組んでいくのが造園の仕事です。
 ただ樹に詳しいとか、庭いじりが好きだというのとは違うのですね。ですからさまざまな分野のプロフェッショナルが集まってきます。そこで互いに協力し合いながら、ひとつの環境を創りあげていくわけです。チームワークが大切なんです。
 デザインだけが独り歩きしていてもいい作品は作れませんし、樹だけが自己主張していてもいい環境にはならない。緑がいきいきとしている環境をつくることで、「誰か」に喜んでもらう。それを一番のやりがいとしている仕事なんです。

佐藤: 佐藤寛と言います。私は実家が造園業でしたので、その仕事を継ぐという形になっていますが、小さい頃から見てきて、確かに造園というのは幅が広い世界だなあと感じていました。
 公共的な公園から、街の中の広場や緑地、街路樹の剪定、個人宅の庭園まで、実にさまざまです。一つとして同じものがありません。しかも、ずっと残っていくものなんですね。
 働き始めてから現在まで、携わってきた現場はしっかり覚えています。近くを通りかかっただけでも、仕事をしていた時の想いとか、出来上がった時の達成感とか、すぐに思い出します。やはり気にかかるんです。

 

お客様と一緒に 景観を育てていく

中島 徹さん
中島 徹さん
(株式会社あかね苑)

中島: 中島徹です。今の時期は街路樹などの剪定が主なのですが、春夏秋とさまざまな仕事に携わって、その意味ではたいへん季節感のある仕事だと思っています。
 例えば、ある個人のお客様宅の外構工事では、石のアプローチを作って、そこに何十種類もの樹木を植えていく。樹はいきものですから、植えればそれでよいわけではなくて、先を考えて、育ちやすく、美しくなるように工夫を凝らすわけです。そうやってつくりあげた庭を、お客様と一緒に育てていく。それが大きな楽しみの一つです。
 また最近では、学校のグラウンドなどを芝生にするという仕事も増えてきています。校庭緑化の取り組みの一つなのですが、スポーツをしたり遊んだりする上でも安全ですし、何といっても緑に直接触れ合う楽しさが味わえます。でも芝生化といっても簡単ではないんですよ。土壌を掘り起こして、水撒きができるようにスプリンクラーも埋め込んで、整地をして、それから種を播く。維持管理もしていくわけです。

佐藤: 造園の仕事は、ずっと残っていくものですから、維持管理をしていかなければいけない。その点は、設計をする時から、現場を思い描いて、後々のことも考えて、作り込んでいきます。ただ頭の中で考えていただけではいいものにならないですね。

 

知識や技術は、 毎日の積み重ね

青木: そういう知識や技術を、皆さんはどうやって身につけていくんですか。

北村: 「これをこのようにやりなさい」と言ってその通りにできたら簡単なんですが、なかなかそうはいきませんね。造園の技術には、先輩の仕事を見て、自分でやってみて、考えて工夫をして身につけていくという部分も多いんです。
 ですから、毎日の仕事の中での積み重ねだと思います。私もいまだに勉強中です。

中島: 特に樹のことは本当に今でも勉強、勉強ですね。庭木にするもの、街路樹に使われるもの、どの一つをとっても、さまざまな特徴や個性があって、剪定の仕方もさまざまな考え方がある。お客様の要望という面もありますから、勉強しないといけない。先輩にも聞きますし、調べたりもしますが、奥が深い。

 

現場をしっかりと見る、 興味を持つ

佐藤 寛さん
佐藤 寛さん
(株式会社佐藤園芸)

鈴木: 造園の設計などでは、どうやってアイデアを生みだしていくのですか。

北村: 難しい質問ですね。基本は、現場をしっかりと見て、そこにふさわしい景観を思い描いていくことですが、自分一人の経験や知識には限りがありますから。とにかく見聞を広めようということでしょうか。

中島: 興味を持つ、ということがまずは大事だと思います。
 わからないことがあっても、うやむやにしない。聞いてみる、調べてみる、考えてみる、やってみるということです。
 興味を掘り下げていくことで、自分はどこに力を入れていくのか、何を強みにしていくのかを見つけていく。
 私の勤務先は高校からも近いので、もしわからないなということがあったら、いつでも聞きにきてください。

佐藤: 他の作品をみて「まねる」ことも大切ですね。自分の発想にはなかったようなアイデアとか、新しいテクニックとか。本や雑誌からでもそういう発見はあります。ただ、それをそのまま利用できるわけではありませんから、自分なりに消化していく。それを実際の仕事の中で応用できるものは応用して、現実とすり合わせていくんです。とにかくいろんなものを見て吸収することは大切だと思います。

 

もっともっと見聞を 広めよう

野口惠理さん
長野県須坂園芸高等学校
3年生 野口惠理さん

野口: これからの造園技術者に必要なものって何だと思いますか。

中島: 私たちの仕事は、樹といういきものと関わっているわけですが、さらにお客様や利用される方とも関わっている。人と会話して、樹と対話していく仕事。造園業というと何となく寡黙な職人気質と思われるかもしれませんが、仕事の間にはお客様ともたくさん話をして、一緒に考えたり、新しい提案をしたりということがあります。コミュニケーションは大切です。

北村: さきほど私は、見聞を広めようと言いましたが、造園に携わるものにとってこれから最も大切なのは「フィロソフィー(哲学)」を持つことだと思います。自分はどういう「信念=想い」を持ってこの仕事に臨んでいくかということです。
 いま造園設計の話がありましたが、よく「コンセプトは何か」という話をしますね。設計の「意図」は何かと。でも、どんな「意図」でつくるかよりも、どんな「想い」を込めてつくっていくかが大事なのです。
 これは、最も根っこの部分のお話ですね。

佐藤: 自分が造園という仕事をするにあたって、どういう「想い」を持ち続けるかということですね。そういう自分としての考えを少しずつでも持つようになっていければいいですね。それが本当のプロフェッショナルですから。

司会: いま、先輩方の話を聞いていて、高校生の皆さんはどう感じましたか。

青木: ありがとうございました。僕は卒業後、造園の仕事をしたいと思っています。この高校で3年間過ごして、草刈りなどの基本的なことから剪定や刈込まで、ある程度は自分でもできるようになったかなと思っています。その上で、先輩たちから技術をしっかり学んで、身につけて、いつか「一人前の職人」と言われるような造園技術者になりたいと思っています。

枯山水
須坂園芸高校にある日本庭園「枯山水」

鈴木: 私も就職希望です。庭というのは、人にとって憩いの場ですけれど、樹や植物にとっても大切な居場所。50年も100年もいきいきと生き続けられるような、そんな空間づくりに取り組んでみたいと思っています。

野口: 私は進学希望ですが、ここで学んだことを基礎にして、将来は公園設計などにも取り組んでいくような方向へ進みたいと思っています。今日は貴重なお話を聞くことができました。

司会: 皆さんありがとうございました。